Vol.31 古書市場、業界の変化

この夏、世界の古書業界に大きなニュースが流れました。
1960年頃から20世紀の終わりにかけて“H. P. KRAUS書店”としてマンハッタンの中心地から業界をリードし、いくつかの世界的な個人蔵書や図書館の構築に強力な役割りを演じてきた同書店が、半世紀に及ぶ事業を閉じることが発表されました。今秋、全ての在庫品はサザビーズ社によってオークションにかけられることになりました。
オーナー経営の古書店のトップクラスと言われ立派な店を町の中心に構えたサンフランシスコのハウエル書店、ロサンゼルスのザイトリン書店、ニューヨークのフレミング書店、そしてクラウスファミリーの経営であったスイス・チューリッヒのシューマン書店等、オーナーの死去と共に閉店し、まさに一つの黄金の時代がその幕を閉じ、今は新しい第ニ幕が始まるその幕間の時と位置付けています。
 

オークション会社の影響

私共雄松堂書店も昨年11月、創業70周年の記念事業としてクリスティーズ社と共同主催による“古書鑑定会”を開かせていただき、たくさんの方々が参加され、そのうちのいくつかがニューヨークやロンドンのオークションに出品されましたが、同社やサザビーズ社そしてニューヨークのスワン等、古書類専門のオークションハウス等へ商品が集中する傾向が強くなっています。理由は相続評価等の際に客観的な評価を得られること、何と言っても“知名度”が高く、信用性も高く、資金力があること、しかし、オークションで決まる価格が本当に適正で客観性が高いか否かについては種々見方があるので、必ずしも適正とは言えないかもしれません。一方、オークション会社は昔と異なり、最近では売り手、買い手双方からトータルすると20~30%の手数料を得るため、ますます高収益を得られるようになり、よって集品活動や営業活動に大きな資金を使えるので、著名な大きな取引は最近ほとんどオークション会社に集中しています。集中すると資金力のある業者や二、三の有力客の代理を務める業者に商品は集中します。世界的な低金利、低収益時代、大型のファンドが投機型の限られた一流商品に集中、個人営業の専門業者ではとても手に負える状況ではなくなっているようです。
書物という商品は、他の美術品と異なり、“何世紀に何冊印刷されたのか、今市場に出る可能性があるものは何冊位しかないのか”比較的はっきりしており、書誌学的な考察も十分なされているので、著名な“本”の値段は10年位前の3~4倍に上昇し、研究機関、図書館、通常の愛書家の手には入りにくい状況になっています。この現象はますます一般の人達に古書を集めるというこの業界を支えている市場を縮小させ、業界そのものの将来性に不安をもたせることになります。
今、業界は協力して新しいマーケットの構築に向けて“古書を集める楽しさ”を一般の人達に知ってもらう努力をする時です。
 

インターネット時代と古書業界

世界の古書業界をまとめる「国際古書籍商連盟」(ILAB)は今、加盟20カ国、2,000余の加盟店がホームページネットワーク化に努力を集中し、世界中のマーケットにむけて自社商品のネット販売が出来るようシステムの質の向上に努めています。同じタイトルの“古書商品”を何店か異なった会員が売り出している時に、買い手が選択できるようになっているのですが、デメリットはリストや写真だけでは“古書の総合的な保存状態”が判りにくいこと、世界中ほとんど値段が高値に安定してしまって、昔のような掘り出し物が無くなってしまい、面白さやコレクターの努力が評価しにくくなります。

日本では新古書店市場が急速に成長している一方で、古書市場も意欲の高い若手の古書業界の人達の努力で、それなりに安定して、全く新古書やネット市場と異なる形で、これからも明るいと言われていますが、やはり市場規模そのものは徐々に小さくなっているようです。転換期と言えます。
世界中あちこちで“古書展”が開かれますが、誰が買っているのでしょうか。
 
2003年10月