Vol.30 本をみて親しんでもらう努力

6月下旬、10日間ほどアメリカへ出かけました。イラク戦争やSARSの影響で、春からのびのびになっていたいくつかの大事な仕事の話、そして昨年私共の70周年事業で種々とお世話になった方々へのお礼を兼ねた出張でしたが、週末を利用し、以前に新築移転したロサンゼルスのポール・ゲティー博物館と、当社と深い関係(チョーサー「カンタベリー物語」写本をファクシミリ版で共同出版)にあり現在新研究棟を工事中のハンティントン・ライブラリーを訪れました。
 
“本や写本”等、図書館型の収集品は、美術品と比べると、一般公開展示型の、多くの人に、しかも手に触れられないように見せることはなかなか難しいことですが、両館共、デジタル画像を使ったり、解説キャプションを上手に使いながら“本や写本”の時代考証、書誌学的な解題等、世界に誇る屈指の品を上手に展示しています。又、何と言っても両館の立地環境のすばらしいことです。日本流で言えば、図書館に修学旅行型、団体旅行型の人達がこんなにたくさん来ている所があるでしょうか。古い考え方で言えば、図書館は本を保管し、保存し後世に伝えること、勿論これからも最大の使命かもしれませんが、活字や文章を通じて多くの人に人類の歴史を伝えていくために、たくさんの人々に来館していただき、親しんでもらうことが必要ではないでしょうか。
 
丁度ポール・ゲティー博物館では、同館の収蔵品を中心に世界中からの協力のもとで、“中世・ルネッサンス写本展”が開かれていました。15世紀中頃、グーテンベルクの活字印刷の発明により、近代印刷術による出版、印刷活動がスタートするまで、“写本”は情報伝達唯一の手段として重要な役割を果たし、世界中の中世研究者にとって不可欠の資料となっています。この展示会は、続いて別の建物でルネッサンス期の写本が大量に展示されていました。活字の出現で写本は必要なくなったのでしょうか。ルネッサンス期にヨーロッパでは写本文化は芸術性を加え、更に開花しました。何故かといろいろと考えてみました。現在、デジタル化によって情報伝達の手段は活字からIT化の中で急速な変化(進歩とも言えます)を示しています。
図書館不要論とか、活字本はいまに無くなるかもしれない等、極端な話が聞こえてきます。
 
“本を読む”“本を買ってもらう”“本を大切にしてもらう”“図書館を利用してもらう”“不正なコピーはしてはいけない”今、出版人、書店人、図書館人は改めて“本”とは何か、人間にとって“本”とは何? 私達は良い本を造ることに更に努力を集中すべきと思っています。
 
ロサンゼルスへお出かけの際、ぜひ両館を訪ねるようお勧めします。
 
ポール・ゲティー博物館
 
2003年8月