Vol.88 ”本との出会い”-今は亡き恩人たちへの感謝 Part 2

私の50余年にわたる、”本との出会い”がなくては語れない人生の中で、大変多くの方々のご指導やご協力をいただきました。ある意味、日本においてベンチャー・ビジネスであった私の仕事は、私の夢を理解していただいたお客様、また良きライバルとして切礎琢磨してきた同業者の方々など、世界中の多くの方々に支えられてきました。
若い頃から長い間手がけてきた洋書の輸入という大きな取り組みが、現在にいたって日本で実を結んだことは感慨無量の心境です。一方で、慌ただしく変化する国際情勢の中、私の育ててきたプロジェクトも大きな変化を遂げ、新しい世代に引き継がれつつあります。
世界の書籍・出版業界大きな変革や、情報伝達手段の転換期の中で、ひとつの礎として、特に私が今までの人生において強く触発された方々について記憶を残しておくことにいたしました。

 

Mr. Rothman, Mr. Kraus, Mr. Altman, Mr. Dawson, Mr. Howell, Mr. Zeitlin, Mr. Power

最初にアメリカで修業した時に、快くホームステイを引き受けていただいたロスマンご夫妻には本当にお世話になりました。ニューヨーク大学法律図書館長を務めたのち、法律専門の出版・販売の会社を興した方で、私が伺ったのはちょうどニューヨークの市内にあった事務所をニュージャージーに移された頃でした。ロスマン氏は図書館関係の知人が多かったため、その関係でよく著名な大学の図書館に連れていってくださいました。訪問したアメリカの大学図書館は、今まで私がイメージしていた大学図書館とは建物や設備をはじめ、だいぶ違ことに圧倒されました。終戦からちょうど10年が経過した頃のことで、日本はアメリカに学ぶべきという風潮が強くあったことから、今に日本の図書館や大学も変わるだろうと思い、大きなビジネスチャンスがあると確信したのも、このアメリカでの8か月の滞在がきっかけでした。ロスマン社はその後、ご子息であるポール氏が継承し、私の会社とも取引を続けていただきましたが、10 年ほど前に業界から撤退されました。
 
このアメリカ滞在中の後半あたりから、世界中の大学図書館が活発に資料の拡充や欠落の補充に着手し始めました。日本の大学も政府の支援や特別外貨枠などの制度を設けたこともあり、欧米、特にアメリカから学術資料の輸入に目を向けるようになっていきました。当時まだ日本は企業の歴史や知名度が優先される国でしたが、私は競争相手の業者より一足先にアメリカに人脈を持てたおかげで、他業者より海外情報の収集に有利な立場でしたし、専門的な商品を扱うことに徹したおかげで、この業界で次第に評価されるようになっていきました。また、この頃大学も貴重な古書の収集に目を向け始めたことに合わせ、私どもの会社でも貴重書の取り扱いに着手し、戦後はじめて日本からニューヨークのオークションに参加することとなりました。また、オリジナルの商品が不足すると、海外の書店と協力して貴重書のリプリント版の製作をするなど新しいことにも挑戦していきました。当時、貴重書の購入にあたって、資金面、収集面などで協力をしてくださったアメリカの著名な資料販売会社クラウス社をはじめとするアメリカを代表する書店やビブリオフィルの方々には感謝の念しかありません。現在、日本の機関が所蔵する世界的ないくつかの一流貴重書やコレクション類もこれらの方々との連携によって収集されたものです。
 
勿論、ここに一人一人名前は挙げてはおりませんが、ヨーロッパやアジアの今は亡き多くの先輩たちの応援によってここまで仕事を続けることができました。ニューヨーク に来たらホテルを取らずに我が家に泊りなさいと言って目をみはる邸宅に招待してくれたフレミング氏、アメリカでの最初の一週間に滞在させていただいたロサンゼルスのドーソン氏、日本に洋古書専門の団体を作り、国際組織に加盟しなさいと手取り足取り教えてくださった長身のハウエル氏、晩年、名著が手に入ると必ず私に電話で連絡をくださり、今考えると驚くようなビジネスチャンスを与えていただいたザイトリン氏、雄松堂に日本国内の大学に向けて資料を大量に輸入する原動力を与えてくださったクラウス氏やオルトマン氏。また書籍だけではなく、ミシガン大学訪問の際に、図書館の方にご紹介いただいたUniv. Microfilm社オーナーのパワー氏との出会いは、雄松堂マイクロフィルム事業のきっかけとなりました。こうして雄松堂は次第に書籍だけではなく、国際的なマイクロフォーム出版事業やリプリント出版事業において、日本のその分野を牽引していくことができるようになっていったのです。
この原稿を書きながら、これらの人々との国境を越えての交流をつい先日のように思い浮かべます。今は亡きこれらの人々に改めて“ありがとうございました”と感謝の念を表したいと思います。
 
2013年4月