Vol.77 震災と本、経験と提案

震災と本、経験と提案

今度の大災害の件で、現地に赴き大学の先生や図書館の方々とお話ししながら思い出したのは、戦後アメリカでの勉強から帰国して洋書の輸入業を始めた頃のことです。当時は日本の全てが全く機能していませんでした。大学の図書館は海外からの書物が丁度15年間ぐらいほとんど購入されていませんでした。研究者は予算もなく、文献資料の乏しい中で日本の復興に向けて研究や授業を再開しました。当時の日本は海外から物を輸入する外貨がなく、不急不要なものに外貨の割り当ては全くなかったのは当然です。皆例えば日比谷のアメリカ文化センターなどでむさぼるように本を読みました。
そんな中で学術研究用の雑誌や本を輸入するために、手続は若干面倒でしたが当時の政府は外貨を割り当ててくれました。私が洋書の輸入を天職に選ぶことが出来たのは、こんな事情があったと記憶しています。今度の災害と戦後を比較する事はできませんが、再び日本の研究力を高め世界をリードしていくためにも、困難な時ではありますが、政府が思い切って研究開発予算を組んでくれることを願ってやみません。ここで間違えると戦後、先輩たちが築いてきた研究、技術立国日本の再現がなくなってしまいかねません。
       
国会図書館が大型政府予算によって、日本で刊行された文献のデジタル化を進めています。私たちの税金を使っての事業です。単なるデジタル保存や同図書館内のみの利用では公平性に欠くという意見が多く出ています。著作権の問題もあり、今後さらに議論が進むと思われるのですが、しっかりした本を出版することに取り組んでいる出版社の立場を考える必要があるのではないでしょうか。今まで2000部刊行していた本が、デジタル情報化の中で1500部になれば価格を上げる必要があり、やはり公平性を欠くことになります。思い切って政府は新しい著作権法の改正と同時に、具体的に出版助成制度を確立したらよいのではないかと思います。
 
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図書館総合展フオーラム2011 in 京都

図書館総合展フオーラム2011 in 京都

5月28日土曜日に京都で、雄松堂の関連会社カルチャージャパンの企画による、「図書館総合展フオーラム2011 in 京都」で特別セミナーが開かれ、土曜日、しかもあいにくの雨にもかかわらず300名にご来場いただき、満席の盛況でした。国会図書館長の長尾先生の“長尾構想”を中心に専門のパネリストを交え議論が行われた活発な会で、ふと東日本大災害の事を忘れてしまいそうになりました。新しいメディアの時代が急速に進みつつあることは皆さんわかっています。私は改めて“本”とはなにかと自分に問いました。
思い出すのは今から20年ぐらい前に当時のアメリカ議会図書館のブースチン館長が年頭の挨拶で折から話題になったネット時代の幕明けについて示唆したことです。
「コンピユーターの技術は今後一気に加速して、500年以上前にグーテンベルグが活字印刷術を開発して一気に西欧文化が開花し、人類に影響を与えた以上の革命的な変化をもたらすであろう。特に科学技術の発展には大きな貢献をすることは間違いない。しかし長い人類の歴史の中で活字の本はどんな時代にあっても生き続け、戦災や動乱、そして天災の際も大事に保存されてきた。反政府的な本でもベッドの下で新しい時代を待ち続けてくれた。図書館は両者を相反するものとはとらえず、それぞれの価値を守ることに使命があると思う。」
 
東北の災害避難所の皆さんが仮図書館でも移動図書館でもいいから早く作ってくださいと訴えていたのをTVで見て、本屋の使命を改めて通感しました。
 
2011年6月