Vol.53 偉大なビブリオフィルお二人を偲んで

偉大なビブリオフィルお二人を偲んで

この春桜の咲く頃、私ども本を愛する者にとっては、かけがえのない偉大なビブリオフィル(愛書家)であるお二人が御逝去された報に接しました。
 
大阪青山歴史文学博物館の館長であられた塩川利員先生は5月27日同館で、世田谷区、静嘉堂文庫長、米山寅太郎先生は6月1日に、それぞれお別れ会が多くの人達が参列して開かれ、改めてお二人の“書物”に対する並外れた洞察力、見識の高さに対し尊敬と感謝の気持ちを確認させていただきました。長い間、特に平成に入り、それぞれの分野で日本における最高の権威者となるお二人と親しく接し、御指導をいただいた者の一人として心に持ち続けてきた“張り”、“意欲”のようなものが静かに消えていくような気持ちで寂しさを禁じえません。
 
ご存知のとおり、大阪青山歴史文学博物館は兵庫県川西市、能勢線一の鳥居駅の前に平成の築城として話題になった立派な城の中にあり、国宝土佐日記をはじめ最高級のコレクションを所蔵していることでも著名であります。塩川さんの基本方針による情熱的な収集は、平成に入ってからも続き、塩川さんはある意味で近年最後の収集家と言えるのではないでしょうか。書物を愛し大切に保存し“本物を見る事の価値”を若い人達に伝え続けた塩川先生と、もうお会いできないのは残念でなりません。日本にある西欧古典の中では最高の品として国際的に評価の高いインキュナビラ“デランダス1459年刊”を私が納めさせていただいた際、欧米の専門家から塩川先生の鑑定眼と先見性に、当時世界中が驚いたと聞かされたことが強い印象として残っています。
 
米山寅太郎先生は、今後このような方は現れないであろうと多くの人達が認めております。特に中国印刷史の世界的権威であり、諸橋轍次先生と共に『大漢和辞典』を編纂された事は周知の事ですが、三菱財閥の二代目・岩崎弥之助が創設した静嘉堂文庫の文庫長として第一級の所蔵品を通じ数々の多大な業績を残されました。
 
1999年秋、日本で国際ビブリオフィル協会の大会が開かれ、世界中の“愛書家“としてトップクラスの収集家、書誌学者が多数日本に集まり、国内の著名な図書館や文庫を訪ねましたが、その後刊行された大会公式報告書の中で、お二人の功績と実力、そして文化財の収集に傾けた情熱のようなものに対し、この分野において、書物の収集などでも日本が世界でもトップクラスであることを認め証明する上で、お二人のお人柄やスピーチを高く評価しており、私達にとっても大変光栄であり、誇りでありました。
 
“ビブリオフィル”は、辞書によると単に“愛書家”と紹介されていますが、欧米の人々の話をまとめてみると、もっと深い意味があるようです、本を愛し、収集、分析、保管し、文化財としての価値を高める事に全力を捧げている人達を言うのではないでしょうか。
 
改めて、お二人の生前の御偉業に対して、敬意を表すると共に、心よりご冥福をお祈りいたします。
 
2007年6月