Vol.42 国際古書市場の動向

1990年秋、東京は世界古書業界にとっての総決算、後になって違った見方をすれば、1980年頃からのバブル型業界の好況感から新しい時代への転換期であったと言われています。
 
ILAB (国際古書籍商連盟)は2年に一度、加盟国の主要都市で総会と大きな“古書展”を開催していますが、1990年の東京大会には世界から330名の業界人が参加し、100以上の有力業者が展示会に出品したので、マスコミはじめ本の愛好家の間で大いに話題になりました。又、日本の図書館や個人の収集家も一流の書物を購入し、ILAB古書展史上、語り草になったほどの大盛会でした。大会や古書展を引き受けた我々ABAJ(日本古書籍商協会)は1965年、やっと外貨の問題も解決して海外からの良書輸入が可能になった時、海外の業界と対等に取引ができるようになる為の必須条件であったILABに加盟し、1973年には東京で大会を開いた実績をもっていましたが、1973年の時は海外業者が東洋の国日本に行く機会を模索していた頃なので、ややともすると観光型の大会であったかもしれません。当時はヨーロッパからどんどん高価で著名な書物がアメリカへ移動していた頃で、殆どの業者は好況の波の中にありました。
 
事実、1973年の大会のあった頃から1980年代の終わり頃まで、日本は欧米の業者にとって最大の市場であったと言われていました。上記1990年の大会を今考えると、一つの転機だと思えるのにはいろいろな要因に起因しています。1990年大会記念古書展は東京のホテルグランドパレスで開かれましたが、その際、ILAB会長アンソニー・ロタ氏(イギリス)は公開記念講演を行い、20世紀末に向けて古書市場は大きく変わると指摘しましたが、その当時、私をはじめ参加者の殆どは余り深刻には考えなかったと記憶しています。古書通信や図書新聞に掲載されたロタ氏の講演全文を改めて見直してみると、15年後の今日、まさに彼の指摘通りになっていることに注目したいと思います。いくつか彼の指摘や懸念についてまとめてみると、
 
1)FAXの登場や電話網の整備により取引はますます国際化する

2)為替の自由化は強い外貨の国に良い本が流れる

3)予算の関係で大学図書館等はあまり貴重古書を買わなくなる

4)多国籍型の大きな資本のオークション会社の影響で、資金のある業者、個人のところに良いものは高くても集中する傾向がある

5)都心で誰でもゆっくり本が楽しめる古書店はだんだん消えていく

6)古書を投資のひとつとして購入する人も出てくるので、初版類や参考書(PMM等)に出てくるようなものは数十倍の値段で取引されるようになるかもしれない

 
以上のことを15年後の今、世界の業界の流れで見ますと、80%が的中していると思われますが、皆さんはどう判断するでしょうか。
ABAJは今年、創立から丁度40周年にあたるので、以前この欄で紹介した通り1月末、六本木ヒルズで記念古書展を開催して、新しい人、若い人に古書の面白さ、集める楽しさを知ってもらうために会員、そして海外からも多数の参加を得てイベントを開きましたが、その際、ABAA(全米古書籍商協会)の会長、ジョン・クライトン氏を招いて、同じようなテーマ“古書業界の未来”について講演をお願いし、日本の業界関係者に大きなインパクトを与えたといわれています。“コンピュータ”の出現、Websiteの登場は業界の様相を一気に変えたのではないでしょうか。事実アメリカでは平均的な売上の半分がNetによるものではないかといわれています。一方で大きな資本や、有力な品物を持っている者の有利さは一層鮮明になっています。
 
私は最近の世界古書業界の動向について一口に言えば、難しいが面白い時代に入ったと思っています。私たち業界人は“文化遺産としての本”を正しく流通し、保存していく為の仲介者として、責任と誇りをもって仕事をしていく必要があると思いますし、一人でも多くの人に古書に接してもらい、収集に興味をもっていただくよう努力していきたいと考えています。
 
最後に、今年9月カナダのモントリオールで開かれるILABの理事会、参加国代表者会議に私もABAJを代表して参加することになりますが、既に話題になっている中国やインドが新しい市場(1970年代の日本のように)に登場した時の業界に与える影響について、討議をする予定です。また著名な図書の盗難に対する業界の対応(ネットワーク)について、具体的な提案を国際図書館連盟へ提出することも考えています。
 
2005年8月