Vol.103 大学の使命「研究から、教育へ」それでよいのか

 

私の知人が最近マレーシアの著名な大学をたずねて驚いたそうです。企業の研修センターのような雰囲気で、どこに教授の研究室があるのか、一般的にいう授業(教室)はどこでやっているのか。あまり学生はおらず、いたとしても90%が図書館のラウンジ等でPCを前にしている。「PCはどこでもできるのだが、ここだと静かで煙草も吸えるし、コーヒーも飲めるから!」図書館不要論もこんなところから議論が始まっているのでしょう。

 

本来大学は研究の場であり、すぐに役立つ実務教育は企業や社会が負担してきました。しかし、現在は大学がこの実務教育に注力するようになり、元の使命や役割を少しずつ減らしてきています。特に人文社会学系の分野においては、我が国の国策としても、また世界的風潮としてもこの傾向は顕著になりつつあります。

 

確かに、シェイクスピアの作品や当時の英語を日本人の学生が研究テーマとして取り組み論文を書いて卒業することが、現在のように急変しグローバル化していく中でどんな意味があるか?と言ってしまえばそれきりかもしれません。それより、堂々と海外の人たちと渡り合える語学力を持つ人材教育のほうを優先するのは当たり前のことと一般的には思うでしょう。

 

しかし私は、努力をして外国や日本の現実を研究し、日本を戦後一流の国に育て上げたのは研究機関としての大学研究、それを基盤とした基礎教育のお蔭であったと思っています。
私は、大学や研究機関の基礎研究のために海外からの資料収集や出版など書籍の仕事を全うできたことを誇りに思っています。

 

東京大学新図書館構想について、私達の期待

現段階で東京大学の新図書館構想は、研究機関として、教育機関として、東大の歴史とこれからの使命を、形、システムとして一般に問う、スケールの大きな実験と言われています。

 

雄松堂は過去20年以上、その時点の重要なテーマを選んでYushodo Forumを開催してきました。今回のフォーラムは、来年春に企業統合することの決定をうけ「丸善・雄松堂 統合記念フォーラム2015」として、図書館総合展の会場内会場で開くことにいたしました。

 

「大学図書館の現実的な未来像:東京大学新図書館構想などをめぐって」と題し、土屋俊さんをコーディネーターに、堀新図書館計画推進室室長など、構想の主力となった先生方を招いて開催いたします。多数の皆様のご来場をお待ちしております。

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    お問い合わせは03-3357-1415(雄松堂書店、佐藤・松野まで)

 

世界的な稀購書は財産としての価値があるか

現在アメリカを中心に、高額の資産を持つ個人や機関が増えていると、各種の統計類に出ています。日本の明治時代の著名な成功者は、日本の文化立国としての側面を重視する人たちが多く、現在でも残る私学や博物館、図書館を設け私達のために残してくれました。現在のアメリカや、昔の日本には今より一桁くらい資産を多く残した成功者や資産家がおりましたので、余裕があったのかもしれませんが、いずれにせよ、立派な書物を現代に残してくれたおかげで、私達はそれなりに文化国家日本を自負することができるのでしょう。

 

私は50年ぐらい前に古書などの輸入業務を始めたころから「必ず値段が上がるから本を買っておこう」すなわち、投資の対象としての本の収集はお勧めしませんでした。しかし、絶対に資産価値は下がりませんとお客様に申し上げてきました。
本の資産価値を十分評価いただいて、将来は母校の図書館などに寄贈していただきたいものと期待しています。最近の円安傾向で、せっかく輸入した本がアメリカに買い戻される傾向が強くなっています。

 

世界三大発明の一つと言われた「活字本」その文化的な価値は永遠です。

 

 

2015年10月

 

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