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■ テクストと舞台をつなぐ研究に期待

早稲田大学文学学術院 冬木 ひろみ 教授

 シェイクスピアのプロンプト・ブック(上演台本)は、上演研究には欠かせない資料の一つである。だがその大半は、シェイクスピアのフォリオやクォートの保有数で世界的に有名なアメリカのフォルジャー・ライブラリーが所有しており、現地に赴かないとなかなか見ることができない。そのフォルジャー・ライブラリーのプロンプト・ブックのコレクションがオンライン化されたことは、上演に関わる研究をしようとする者にとっては画期的なことと言えるだろう。なぜプロンプト・ブックが上演研究に必要なのかと言えば、舞台稽古の際のコメントや台詞の削除などの指示が書き込まれており、テクストと舞台の関係、観客や文化的な背景もそこから見えてくる可能性があるからだ。例えば、1833年のOthelloでは、3幕1場の途中に、「この言葉の後にキーン (Edmund Kean)は倒れ、二度と舞台で演じることはなかった」という書き込みが左横に記されている。こうした書き込みは、過去の資料という範疇を越えて、演劇現場での一場面を恐ろしいほど伝えてくれる。名優ギャリックの使ったHamletのテクストも興味深い。

1833年Othelloのプロンプト・ブック (Shattuck Code OTH 12)
左下にキーンについての書き込みが見られる。

 このデータベースは、書き込みのあるテクストを34作品分収録してあり、それぞれの劇すべての内容を容易に検索し、見られるようになっている。映像化された作品も収められており、Hamletの項目では、オリヴィエ版をリリースする際のプロモーション用の解説パンフレットも収録されており、映画研究の分野にも貢献できる資料となっている。

1948年ローレンス・オリヴィエ版映画Hamletプロモーション用解説パンフレット

 便利なのがCase Studiesの項目で、それぞれの上演台本がシェイクスピアのどのテクストを使ったかについても、シェイクスピア学者による解説がなされていることも研究する者にとっては非常にありがたい。

Case Studies閲覧画面

 現在、シェイクスピア研究の一分野として上演研究が大きな位置を占めているが、こうしたプロンプト・ブックの資料から上演に関わるさまざまな確証を得ることで、これまでにないテクストと舞台をつなぐ研究ができるものと期待される。