logo

■ 軍事史、医療・医学史の分野を超え、新たな研究材料を提供してくれる史料群

東洋英和女学院大学 国際社会学部 平体 由美 教授

  近年、軍事史研究と医療・医学史研究の接合が様々な角度から試みられている。そこから生み出されている知見は、軍事史と医療・医学史それぞれの枠組みを押し広げ、国際関係史はもとより、科学技術史、ジェンダー史、植民地医療史、精神保健史などの再解釈を促している。本コレクションはそのような研究に様々な材料を提供するものである。

 

 19世紀半ば以来、英米では、軍隊の構成員として働く兵士や軍属・後方支援者を守り、傷病で倒れた者を可能な限り早期に戦線に復帰させることが、戦争遂行の重要なプログラムの一つと認識されるようになった。これは①現場の兵力の低下を可能な限り食い止めること、②社会の側、特に兵士を送り出す社会階層による軍隊忌避および政府批判を回避すること、③民間団体や専門職集団による戦争協力を継続的に確保すること、が肝要であるとの判断が働いていたことによる。以降、医療は軍隊の維持管理に密接に関わる事項となり、また戦争は医療職を動員することで医療の知識と技術を拡散・発展させる場を提供するものとなった。兵の訓練と配置準備、輸送展開、戦闘、後方支援に医療はその都度関わっていただけでなく、現場の活動を通して医者の技術を引き上げ、兵士を対象とした実験や戦死者の解剖により医学的・公衆衛生的知見を積み上げ、また男性だけでなく女性の看護者・看護支援者(傷病兵輸送支援など)の活動の場を広げた。

 

 本コレクションは、戦争の大規模化と総力戦化が進行する19世紀半ばから1920年代の、主としてイギリスとアメリカにおける、軍隊と医療が接合した分野の史料を収集したものである。軍陣と軍隊の管理という政府直轄の事項だけでなく、植民地医療知の循環、医療従事者の育成訓練の近代化、兵士の看護をめぐるジェンダーの問題、各種財団や赤十字などの非政府組織を含む戦争遂行システムの構築など、様々な分野の研究を充実させうる重要な史料がまとめられている。これを足がかりとして、さらなる新しい知見の提示が期待される。